ワーグナー生誕200年を記念して製作された、フランク・カストルフ演出。
バイロイト音楽祭 2015。最終夜は楽劇「神々のたそがれ」。「ニーベルングの指環」4部作のうち4時間半におよぶ最長の大作。その劇的変化に富む音楽をお届けする。あれだけ騒いでいた「石油問題」のテーマは何処へやら、ノートゥングを帯刀していないジークフリートは手持ち無沙汰だ。散漫で雑駁な演出もキリル・ペトレンコの音楽の素晴らしさに救済された。
ワーグナーが粋を尽くした精緻かつ壮大な音楽を、些かも粗暴に陥らせず、曖昧混沌たる音にもせず、かくも明晰に瑞々しく、しかも表情豊かに響かせる指揮者は、決して多くないだろう。たっぷりした豊潤な音でありながら、引き締まって無駄のない響きである。もっとも、ペトレンコは、いかなる瞬間にもオーケストラの均衡を重視しており、そのため音楽を過度に咆哮させたり、忘我的な興奮に陥らせたりすることを避けているようである。その辺りは現代っ子なのであろう。演出家の狙っていたことの最大の理解者は彼かもしれない。
近年のワーグナーの音楽では、わたしはダニエル・バレンボイムを聴いた受けた官能的な高潮は忘れられないし、大人の音楽として、どっぷりと陶酔に陥れてしまっても良いとは思う。ともあれ、このカストルフ演出を気にせずに音楽だけのFM放送に身を委ねよう。
今年で、ペトレンコは『ニーベルングの指環』チクルスの指揮を卒業、彼の他の演目、また、来年の指揮者の出来栄えに期待している。最後に、音楽を耳にするだけでは悔しいことがだまり役の演技である。『ニーベルングの指環』では熊が狂言回しとして登場します。それが音だけでは伝わらないことだけは残念。
「前夜祭と3日間の舞台祝祭劇“ニーベルングの指環”から第三夜 楽劇“神々のたそがれ”」 ワーグナー作曲
- (第1幕:1時間53分26秒)
- (第2幕:1時間05分14秒)
- (第3幕:1時間13分38)
- ジークフリート…(テノール)シュテファン・フィンケ
- グンター…(バリトン)アレハンドロ・マルコ・ブールメスター
- アルベリヒ…(バス・バリトン)アルベルト・ドーメン
- ハーゲン…(バス)ステファン・ミリング
- ブリュンヒルデ…(ソプラノ)キャサリン・フォスター
- グートルーネ…(ソプラノ)アリソン・オークス
- ワルトラウテ…(メゾ・ソプラノ)クラウディア・マーンケ
- 第一のノルン…(メゾ・ソプラノ)アンナ・ラプコフスカヤ
- 第二のノルン…(メゾ・ソプラノ)クラウディア・マーンケ
- 第三のノルン…(ソプラノ)クリスティアーネ・コール
- ウォークリンデ…(ソプラノ)ミレルラ・ハーゲン
- ウェルグンデ…(ソプラノ)ユリア・ルティグリアーノ
- フロースヒルデ…(メゾ・ソプラノ)アンナ・ラプコフスカヤ
- (合唱)バイロイト祝祭合唱団
- (合唱指揮)エバハルト・フリードリヒ
- (管弦楽)バイロイト祝祭管弦楽団
- (指揮)キリル・ペトレンコ
~ドイツ・バイロイト祝祭劇場で収録~
(2015年8月1日)
NHK-FM でオンエア、2015年12月27日、日曜日、午後9時~午前1時45分