ワーグナー生誕200年を記念して製作された、フランク・カストルフ演出。
バイロイト音楽祭 2015。恐れを知らぬ英雄ジークフリートの成長物語が描かれた楽劇「ジークフリート」を放送する。奇抜な演出に賛否が巻き起こった演奏を聴いていただく。猛烈なブーイングに混じって、これ見よがしの爆笑も巻き起こった何とも滅茶苦茶な演出でジークフリートが巨大なワニに餌付けしたり、森の小鳥が、その巨大なワニに喰われてしまう。メルヘン・オペラだと見れば子供も楽しめるだろうけれども、世界支配の権力を秘めた「指環」を「石油」に読み替え、その利権争奪の歴史の流れを、4部それぞれにシチュエーションを変え、さまざまな局面から描き出そうという狙いと推測できる今回の演出テーマが「ジークフリート」ではどこかへ行ってしまった。
わたしはどうも、ジークフリートがヴォータンの槍を剣でたたき折るのではなく、手でヘシ折ることに拘りたい。このジークフリート自身が鍛え直し、ノートゥングと新しい名前をつける剣は、ヴォータンが息子のために残した剣で、一旦砕けた断片を鍛え直しヴォータンの槍を剣で叩き折ることで父親たちを乗り越えて独り立ちすることを意味している。子供っぽい演出も、ありのままの自己を尊重し受け入れたいと自立出来ていないことへのジレンマから『いつの間にか』出来上がっていたり、肝心な第3幕ではどこかへ行ったのか?
ともあれこのカストルフ演出を侍を思い重ねるような封建的時代錯誤を感じる父親と息子の関係より、その象徴であるノートゥングの剣無しで『ジークフリート』を理解しやすい演出が登場する布石になれば、成功だったと、その時に言えるでしょう。
地味で動きの少ない『ジークフリート』はとっつきにくい題材では有る。その分、音楽は明確な主張を感じさせて響くものとなった。第1幕の静かな序奏の個所から、第3幕冒頭のヴォータンとエルダの場へと成熟の度を加えるように美しい響きが増していき、クライマックスへ向かってオーケストラは実に雄弁に、しかも決して野放図な咆哮にならず、引き締まって均衡豊かに轟々と流れて行く。
「前夜祭と3日間の舞台祝祭劇“ニーベルングの指環”から第二夜 楽劇“ジークフリート”」 ワーグナー作曲
- (第1幕:1時間17分20秒)
- (第2幕:1時間10分42秒)
- (第3幕:1時間17分02秒)
- ジークフリート…(テノール)シュテファン・フィンケ
- ミーメ…(テノール)アンドレアス・コンラート
- さすらい人…(バス・バリトン)ウォルフガング・コッホ
- アルベリヒ…(バス・バリトン)アルベルト・ドーメン
- ファフナー…(バス)アンドレアス・ヘール
- エルダ…(メゾ・ソプラノ)ナディーネ・ワイスマン
- ブリュンヒルデ…(ソプラノ)キャサリン・フォスター
- 森の小鳥…(ソプラノ)ミレルラ・ハーゲン
- (管弦楽)バイロイト祝祭管弦楽団
- (指揮)キリル・ペトレンコ
~ドイツ・バイロイト祝祭劇場で収録~
(2015年7月30日)
NHK-FM でオンエア、2015年12月26日、土曜日、午後9時~午前1時15分