ヴァイオリン・ ソナタ 第5番 ヘ長調 作品24(1800~1801年作)
幸福感に満ちた明るい曲想から《春》という愛称がついたのは、ベートーヴェンの死後のことです。曲は新緑の鮮やかさや頬を撫でる春風の心地よさがよく表現されていて、誰しも同じ気持を感じるでしょう。こうした感動の共有が彼の音楽の最も特徴的なところ。
曲の構成は3楽章から4楽章へと拡大され、展開部はより洗練され全体が統一感を感じさせる作品になっている。構想は《第4番》よりも早い時期のもので、セットで出版するつもりであったが製本上の理由で別々の作品番号で出版されることになった。《運命交響曲》、《皇帝協奏曲》と偶然にも5番に人気作が揃うこととなった。この現象は以降の作曲家に影響を与えていて、ロマン派の作曲家の《第5番》は豊かなメロディーを湛えた楽曲が集中している。
- 1楽章 アレグロ 快活に 7:05
- 連打による動機と音階によるものながら、それは美しい。ピアノの伴奏に乗ってヴァイオリンで第1主題が登場。この主題は10小節から成り、跳躍を含む音形が3回繰り返されて盛り上がって終わる大変バランスのとれた、容姿の美しい少女の様子をイメージさせる。再現部では逆に奏される。
- 2楽章 アダージョ・モルト・エスプレッシーヴォ 緩やかにより情感深く 5:27
- 装飾的な変奏や転調で彩られながらピアノ、ヴァイオリンが交互に美しく歌い交わす。
- 3楽章 スケルツォ:アレグロ・モルト 速くかつ元気よく 1:11
- 音階を上がったり下ったり、急速なトリオ。短い楽章。
- 4楽章 ロンド:アレグレット・マ・ノン・トロッポ 速く、しかしあまり速すぎないように 6:44
- 同音が3回連打される印象的で軽やかな主題は、陰りのある部分をくぐり抜けると更に美しく変化する。それは蛹から蝶に成るような、羽化した蝉が飛び立つような、喜びに満ちたまま曲は終わる。
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