更新情報を土曜日に Facebook に流した中で、反応の良かったのが『シャルル・ミュンシュ指揮パリ管弦楽団、ラヴェル管弦楽名曲集
』でした。
『ボレロ』は大人気の名曲だから優れた演奏も多い。
音楽は限られたフレーズが繰り返され、次々と楽器の数を増やしながら洪水のような大音響で終わる。
それぞれの楽器の妙技を楽しめるもの、リアルに録音されているもの、精密な演奏からダイナミックな演奏まで聴き比べるのが面白い。
音楽はド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シの7つの音で出来ていて、わずか数小節の組み合わせが15分から20分繰り返される『ボレロ』がこれまでに魅惑的なのはなぜでしょう。

一人の踊り子が、舞台で足慣らし。やがて、振りが大きくなってくると、まわりにいた客たちも、次第に踊りに目を向け、最後には一緒に踊り出す。
モーリス・ラヴェルのボレロはそんなストーリーを元に作曲された、バレエのための音楽です。初演の時は客席が雑然としている中、小太鼓の小さな音で始まった。今ではコンサート・ピースとして始まりが緊張感のなか、客席も集中している。初演の時のように雑踏の中で誰かがはじめた踊りが、周囲を巻き込むというのは映画の感動的なシーンを感じさせる。
地下鉄に乗る人、降りてきた人が行き交う中で人混みに飲み込まれたカップルを、人々が抱え上げて手渡しして、二人が愛を打ち明ける。その場のみんなが祝福する。
そういうシーンの映画がありましたが、ラヴェルのボレロを聞くと、それをイメージしてしまいます。


シャルル・ミュンシュは、この『ボレロ』をとても遅いテンポで開始します。中程から次第に速めて高揚感を作り上げていく。理想的な演奏です。楽器の出入りは時に乱暴な響きを伴いますが、それが生き生きとした音楽を感じさせる。こういう録音をレコードとして残したことは、スタジオ録音では慎重に音楽を構築していたミュンシュにしては面白いところです。
ボレロのほかは、「スペイン奇想曲」、「亡き王女のためのパヴァーヌ」、「ダフニスとクロエ第2組曲」。
管楽器の豊かな色彩は、パリ管の魅力が良く感じられます。録音は1968年。このレコーディングの一ヶ月後に、ミュンシュは急逝します。アメリカでの演奏旅行中のことでした。
演奏会でのミュンシュは熱い音楽を聞かせて、観衆を熱狂させていました。パリ管弦楽団は、ミュンシュのために組織されたと言って良いオーケストラだっただけに、他のオーケストラとのレコーディングとは違う音楽が次々と残されていれば、指揮者ミュンシュの音楽の受け取られ方は現在は変わっていたかもしれません。
上品な滑らかさのあるラヴェルではありません。録音も優秀と褒められる音ではない。それでも活き活きと躍動している音楽、生命感を魅せつけてくれる「ボレロ」の演奏は熱狂的、ミュンシュにとっても、この曲にとっても代表する演奏でしょう。PATHÉ盤ではなく、ここはHMV盤を購入するべきレコードです。
- 通販レコード情報
- 見開きジャケット。
- 盤質はそれぞれの曲で、1回から3回の単発ノイズがあります。
通販サイト http://amadeusclassics.otemo-yan.net
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