作曲家・シンセサイザーアーティストの冨田勲氏(享年84歳)が、平成28年5月5日午後2時51分 慢性心不全のため東京都立広尾病院で逝去しました。実にたくさんの作品を聴かせていただき、ありがとうございました。謹んで心よりご冥福をお祈り申し上げます。
訃報 冨田勲氏 (1932~2016)
同日、昼ごろ自宅で倒れ、搬送先の東京都立広尾病院で家族に看取られながら息を引き取りました。葬儀は、5月7日、8日に親族のみで執り行われております。
冨田氏は、日本コロムビアで作曲家としてのキャリアをスタートさせ、 NHK大河ドラマの第1作や手塚治虫アニメの音楽などを多数手がけました。 1970年代からは、シンセサイザーをいち早く導入し、「月の光」や「惑星」など数々の野心的なアルバムを発表。日本人で初めて米グラミー賞にノミネートされるなど、世界的な評価を受けています。近年では、2012年にバーチャル・シンガーの初音ミクをソリストに組み込んだ「イーハトーヴ交響曲」を発表し、国内外で上演を重ね話題となりました。また、今年11月に上演予定の新作「ドクター・コッペリウス」の創作活動を逝去の直前まで行っていました。
追悼盤と成った最後のトミタ・サウンドは、フランスの音の魔術師・ラヴェルの音楽と日本の原風景の融合。
ラヴェルのバレエ組曲「マ・メール・ロワ」はアナログレコードから、デジタルに変わり。CD時代の幕開けを飾った時も同じものでした。ラヴェルはフランスのオーケストラの個性的な楽器の音色で、それまで無かった色彩感を作り出しましたが、それを楽器の制約に規制されない電子音響で再構成したのが冨田勲さんの素晴らしさでした。
トミタ・サウンドが世界中を驚かせた第一作、『月の光』がドビュッシーのピアノ曲をシンセサイザーで演奏した内容で、ドビュッシーとラヴェルはフランス音楽を代表する色彩的な作曲家であることなど、不思議な因縁を感じます。
オホーツク幻想
2016年3月23日に発表されたばかりの冨田勲氏の最新作です。
前作「スペース・ファンタジー」に続く第2弾オムニバスアルバム。トミタのシンセサイザーサウンドの色彩感ともっとも親和性の高いフランスものから、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」と、「マ・メール・ロワ」がメインのプログラムとなる。さらに好評を博したトミタの最新作「イーハトーヴ交響曲」により明るみになった冨田の宮沢賢治への思慕が、今回のアルバムにも刻印されることとなる。
具体的には、「賢治最愛の妹トシから賢治にあてた架空の手紙」を音世界で描いた「オホーツク幻想」が冒頭に置かれているのが特徴だ。さらに、トミタのシンセサイザーによる最も初期の作品でファンの間では「まぼろし」とされていた「銀河鉄道の夜」(TBSブリタニカの付録で音源化されたのみで初CD化)がアルバムの末尾に置かれている。
つまり聴くものはたちまち北方オホーツクへのノスタルジーと憧憬に満ちた音世界に没入し、さらに、視線は旋回し、フランス中世の幻想世界(=亡き王女、マメールロワ)へと至り、その先にはまた、賢治が描いた天空の銀河へと至る、という幻想が大きく弧を描き宇宙へと飛翔するような大きなコンセプトに貫かれているアルバムである。
音色には無限のパレットがあること、子供心に夢を与えてくれた人がこどもの日に。
物心がつき始めた頃、機嫌が良いとおもちゃの太鼓を叩いて遊んでいたと母親が語ってくれた。その叩き方で、怒っているのか楽しいのかが分かったと言っていた。そして、家事仕事をしていても太鼓の音がしている間は、どこに居るかわかるし良かったとも言っていた。
静かにしていると思うと、庭の池に反射して白壁に移る光のゆらぎを眺めていた。風が強く吹く日は、電信柱の電線が唸る音に興味を持っていた。太鼓やラッパといった楽器以外でも音を出す物があるんだと気づくように成るのですが、ああいう物音にも音階が有るのだとは知らなかった。
冨田勲さんの音楽との出会いは、とっても幼い時からだと思う。多分、人形劇に連れて行っていた頃に耳にしているでしょう。楽器でない音の音楽を。
だからでしょう。始めて『月の光』のアルバムを聞いた時に突拍子も無い斬新な仕事だという印象は持ちませんでした。『惑星』は宇宙船の音が模倣されていて面白いなとは思いましたが、むしろピアノの音を電子音に割り振ってしまったこと、無限大の音色のパレットが可能なこと、そのショッキングなことは感動に近く、今後も忘れないでしょう。
以前、初音ミクの仕事をされた時。その仕事を終えられた時。それまでの大きな機材を一切忘れて、コンパクトなシステムでこれからはずっとやりたかったことをゆっくりやりたい、ということをインタビューで答えられていたと記憶しています。
タブレットが一つあれば、音楽を奏でること、作曲することが可能です。それが、リアルタイムで世界中と共有できるなんて、部屋の一室をまるごと電子機器が占領してしまうようなシンセサイザーから音楽を紡ぎだした魔術師は、わたしが想像する以上に驚きと嬉しいことかと思いました。
いくつか作りたい音楽が有ると言っていましたが、それは幾分かでも叶ったのでしょうか。