誕生日と命日が同じになることは、そうは無い。長命であれば、妙に律儀な人だったねぇ、と珍しがられるだろうが、それが僅か24歳の天才肌の音楽家となれば、“神様の意志”は人々の恨みを買ったかもしれない。夭逝したベルギーの作曲家、ギヨーム・ルクーのことである。
パリ音楽院で学んだルクーは、当時の大作曲家フランク門下の俊才だった。フランク門下や彼を信奉する者たちをフランキストと呼ばれるほどだった。この師は同じベルギー出身の若者の才能を愛し、やはり同国の作曲家でヴァイオリンの巨匠だったイザイも、ルクーの《ヴァイオリン・ソナタ ト長調》を盛んに演奏して紹介に努めた。しかし、ルクーは腸チフスに罹って、呆気なくこの世を去ってしまう。現在、唯一演奏される彼のヴァイオリン・ソナタは、3楽章から成る情熱的で高貴さもたたえた音楽。「トレ・ラン(きわめて遅く)」と指示された中間の緩徐楽章は、瞑想的な詩情に溢れた調べが、生と死という人間の宿命を思い起こさせる。
名曲名盤縁起◉生と死という人間の宿命を思わせる甘美な歌〜ギヨーム・ルクー《ヴァイオリン・ソナタ ト長調》
