初演は大失敗
結核で死んでいくヒロインを初演の時に歌った歌手がおデブさんで雰囲気出なかったと、聴衆や批評家から不評をかい2回公演で上演は打ち切られます。タイトルの『ラ・トラヴィアータ』はイタリア語で『道を踏み外した女、堕落した女』を意味します。当時イタリアは統治国側の検閲が有りました。統一されてイタリア王国が樹立されるのは1861年3月17日、ヴェルディが歌劇『椿姫』を上演した頃は分割統治されていました。ヴェルディの両親はどちらもイタリア人ですが、ジュゼッペ・ヴェルディが生まれた時の出生届を提出した役場がフランスの管轄下にあったので、出産したのはイタリアなのにフランス人として記録は残されています。
さて、その検閲で『道を踏み外した女』というタイトル、娼婦を主役にした作品ということで道徳的な観点から「どぎゃんかできんかい」と注意されますが、ヒロインが最後に死ぬということで上演が許された。オペラではヒロインの行動は原作よりもアルフレードとの純愛に偏って描かれており、原作から容量良く主要なエピソードを取り上げて、青年アルフレードとヒロインの『最後の一夜』や、死んだヒロインの墓を青年が暴く場面は描かれない。父親ジェルモンは保守的な良識の持ち主かつ少々偽善的ながら基本的に善人として表現され、和解した父と息子に看取られてヒロインは亡くなっていく。悲劇でも音楽的には明るさ、華やかさ、力強さを失わないヴェルディの特質がもっとも良く発揮されており、ヴェルディの唯一のプリマ・ドンナ・オペラ。とにかくヴェルディとしては、失敗で終わりたくなかったのでしょう。翌年に改めてヴェネツィアのフェニーチェ劇場で再演。その評判は今日ではヴェルディの代表作とされるだけでなく、世界のオペラ劇場の中でも最も上演回数が多い作品の一つに数えられます。
歴史的大失敗を喫したオペラには、プッチーニの蝶々夫人、ビゼーのカルメンも同様でした。どれも現在ではオペラの十八番中の十八番。聞き所盛りだくさんです。
台本はアレクサンドル・デュマ・フィスの小説に基づきフランチェスコ・マリア・ピアーヴェが書きました。優れた台本作家の功績があったことも大切でしょう。ヴァグナーは台本も自身で創作していますから、客観性という面ではオペラとして描かれていない伝説や、風習の知識が薄いと理解不足になりやすいものですが、ヴェルディのオペラは観劇する人、鑑賞する人が感じるままで楽しめますし、ライトモチーフと言った音楽に意味付けられたものもないことが、人気の源泉となっています。
歌劇《椿姫》ハイライト
作品は全3幕、4つの場面になっています。全曲は約2時間20分。トスカニーニ指揮の全曲盤は、放送用の録音でしたので放送時間の2時間に収まるようなカットがあります。又熊本で《椿姫》が上演された時、前半後半の二幕構成にして時間短縮されたことがあります。
主な登場人物は、ヒロインの高級娼婦ヴィオレッタ・ヴァレリー。青年貴族、アルフレード・ジェルモン。アルフレードの父親、ジョルジュ・ジェルモンの3人。他にヴィオレッタのライバル、フローラ、召使のアンニーナ、アルフレードの友人、ガストーネ子爵。ヴィオレッタのパトロン、ドゥフォール男爵、ドビニー侯爵や、最後の幕で脈を取る主治医のグランヴィル先生のほか、合唱がそれぞれ個性的な登場をします。
第1幕への前奏曲 Prelude 3:35
第3幕と似ている音楽ですが、こちらはまだ明るく、そして厳かな印象です。オペラの序曲はファンファーレ風な華やかさで客の注目を集中させる効果がありますが、ヴェルディの評判は確立していましたから、どういうドラマが始まるのか観客の集中は良かったのでしょう。短い音楽です。
哀愁を帯びた旋律を、第2幕でヴィオレッタがアルフレードに別れを告げる場面のメロディーが引き継ぎ、悲劇を予感させながら静かに終わる。
第1幕
初演の失敗にはオペラでは、100年前に設定されていたことも要因と言えます。原作は現在として描かれているのを、生々しいと考えての配慮だったのか、オペラとしてはフランス革命の時代にあった話とすることで華やかでソフィスティケートなイメージにとどめておきたかったのかもしれません。
高級娼婦という主人公の職業や、ヴィオレッタを取り巻くパトロンの男爵やら侯爵。江戸時代末期と重なるので、ヴィオレッタとアルフレートの関係を吉原の花魁とお金持ちの若旦那。海と陸の美しい田舎がアルフレートの出身ですから、江戸に荷物を運んできて廓通いに夢中になった若旦那、ジョルジュ・ジェルモンはその大旦那かお目付け役の大番頭さんとしたら、日本人としては解りやすい置き換えではないでしょうか。
どこか物悲しい前奏曲が終わると、おしゃべりしているような華やかな音楽に変わる。ヴィオレッタの屋敷で夜会が開かれている。玄関から入ってきたのは、ガストーネ子爵に紹介されたアルフレード。おずおずとしていると、大広間にヴィオレッタが登場して乾杯の音頭と成る。
乾杯の歌 Libiamo ne’ lieti calici 2:53
Libiamo, amor fra i calici
Più caldi baci avrà.
Tra voi saprò dividere
Il tempo mio giocondo;
Tutto è follia nel mondo
Ciò che non è piacer.
Godiam, fugace e rapido
È il gaudio dell’amore;
È un fior che nasce e muore,
Né più si può goder.
Godiam c’invita un fervido
Accento lusinghier.
Godiam la tazza e il cantico
La notte abbella e il riso;
In questo paradiso
Ne scopra il nuovo dì.
酌み交わそう、愛の杯を
口づけは熱く燃えるのだ。皆様と一緒なら、楽しい時を分かち合うことが出来ます。
この世は愚かなことで溢れてる、
楽しみの他は。
楽しみましょう、儚く去るのです、
愛の喜びとて。
咲いては散る花のように、二度とは望めないのです。
楽しみましょう、焼け付くような言葉が誘うままに。楽しもう、酒杯と歌は夜と笑いを美しくするのだ。
この楽園の中で新たな日が、私たちを見出すように。
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