不思議な魅力がある現代作曲家の「愛の歌」 ― メシアン〜《トゥランガリラ交響曲》より第5楽章「星々の血の喜び」
オンドマルトノの発明で知られる、モーリス・マルトノが没した日(1980年10月8日)。オンドマルトノとは、小型のオルガンのような形で、旋律を奏でながら音程を自由に変えることができる。鍵盤を弾く奏法と鍵盤の手前に張られた弦をスライドさせて弾く奏法との2種類があり、後者では、チェロのような、人の声のような、暖かみのある音が作り出される。その音は、フランスの音楽美学者ジゼル・ブルレが「魂を奏でる電子楽器」と評した。言葉で説明すればするほど謎が深まるであろう、この楽器。モーリス・マルトノは電気技師でチェロ奏者でもあった。第一次世界大戦時、電気技師として戦地に派遣された彼は、発明されたばかりの無線の音を聴き、音楽を感じたようだ。「この仕組みを利用して、新しい楽器を作ることができるのではないか」こうして戦場の道具が音楽を奏でる楽器へと生まれ変わる機会となった。
現代音楽は可哀想である。クラシック・ファンを自認する人にさえ、聴かれもせずに「わけの分からない音楽」と、放ったらかしにされる。しかし、日本のオーケストラのコンサートによく行かれる方には、お馴染みの現代音楽があるはず。この楽器を有名にもしたフランスの現代作曲家オリヴィエ・メシアンの代表作《トゥランガリラ交響曲》だ。
一般的にはまだ現代音楽の印象かと思われるが、オリヴィエ・メシアン(Olivier Messiaen 1908〜1992)は20世紀を代表する作曲家、オルガン奏者、鳥類学者であった。「どんな曲?」と思われそうだが、彼の革新的な色の使い方、時間と音楽との関係の概念とバードソングの使い方は、特徴中の特徴といえる音楽だ。今日のような日和の良い午後にぴったり。
メシアンはカソリック信仰に基づいた神秘的な色彩の音楽を書いた。《キリストの昇天》が代表作だが、その一方で愛鳥家の彼が世界を回って鳥の鳴き声を採集し、それを反映した《異国の鳥たち》もよく知られている。そんなメシアン入門に最適なのが、出世作《トゥランガリラ交響曲》(1948年)である。トゥランガリラとはサンスクリット語で「愛の歌」の意味で、その第5楽章「星々の血の喜び」は、真の愛情は宇宙の根源でもあるという理念を表している。ここで活躍するピアノが奏でるのは、ガムランのエコーとされる。