アンセルメの「悲愴」のリアルステレオは英国盤ではこのレーベルだけ。出来はもちろん優秀録音の名盤。それは一言で表現すると『惡の華』のある名演。
「私は旅行中に頭の中でこれを作曲しながら幾度となく泣いた。」という作曲家チャイコフスキー自身の言葉が残っているように、この作品には様々な「思い入れ」が積み重ねっています。おまけに、「悲愴」などと言うタイトルがついているのですから、何の思い入れもなしに演奏することの方が難しい作品だとも言えます。
しかし、その「難しい」事を平然とやってのけているのがこのアンセルメによる「悲愴」です。
この演奏には、どこを探しても「悲愴」な雰囲気は存在しません。まさに、長い年月の間に積み重なったありとあらゆる垢や錆をこすり落として、おそらくは作曲家自身も気づかなかったようなすっぴんの姿をさらけ出したのがこの演奏です。
しかし、不思議なのは、そういうアプローチで作品に迫っていながら、後の世の「原典尊重」的な演奏とは雰囲気がずいぶん異なるのです。アンセルメの演奏は、この作品にまとわりついていた一切の「えぐ味」みたいなものを洗い流していながら、決して「蒸留水」のような味気ない音楽にはなっていません。
この演奏の一番の特徴はどの部分をとってみても明晰であり、一つ一つの楽器は何の曖昧さもなしに鳴り響いていながら、その底流において不思議な「熱気」が流れ続けている事です。
ある人はそれをアンセルメの内奥に巣くっている「悪の華」だと表現しました。
しかし、その「熱」はスラブ的ではなく、明らかにラテン的です。ですから、おそらく、この演奏で悲愴を聞いたとしても「ロシア、及びロシア人の国民性」は分からないだろうなと思ってしまいます。
なお、録音に関しては、半世紀以上も前のものとは思えないほどの優秀さです。改めて、この時代のデッカ録音の優秀さを思い知らされますし、その優秀さがアンセルメのアプローチを助けていることも事実です。
アナログレコードのスタンパーの数字とアルファベットの見方についてですが、1A, 2A, 3A … とプレスマスターのナンバリングに成るのではなく、DECCA では録音エンジニア自身がマスターのカッティングも責任をもってましたので、エンジニアの頭文字がスタンパーのアルファベットで識別できます。このケネス・ウィルキンスの担当したレコードのスタンパーのアルファベットは W となっています。
通販レコード詳細・コンディション、価格
品番 | 34-18393 | 特別価格 | 5,280円(税込) |
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商品名 | GB DEC SPA221 エルネスト・アンセルメ チャイコフスキー・交響曲6番「悲愴」 |
レコード番号 | SPA221 |
作曲家 | ピョートル・チャイコフスキー |
指揮者 | エルネスト・アンセルメ |
オーケストラ | スイス・ロマンド管弦楽団 |
録音種別 | STEREO |
ジャケット状態 | EX |
レコード状態 | EX |
製盤国 | GB(イギリス)盤 |
カルテ(管弦楽曲) | BLUE WITH SILVER LETTERING、STEREO (140g)、Release 1959、Stamper 2W/2W |
本盤は、その第3の「 SPA シリーズ」で発売されたレコード。
このシリーズのラインナップはクラシック入門編といった趣で演奏者の全然違う録音を組み合わせた編集盤も多く、コレクション的には無価値ですが、例えばアンセルメの「悲愴」のリアルステレオは英国盤ではこのレーベルだけですし、同じくアンセルメのブラームスやシベリウスなどの珍しい録音もオリジナルに近い金属原盤を用いており、SXL シリーズよりは比較して音質的にも僅かスッキリした感はありますが、一般的に印象としてある DECCA 社らしい高音質 ( HiFi ) となっています。SXLシリーズの初期盤を聴いていない人は、これが DECCA だ、と感じるだろうし聞き慣れた人も独特の味わいで耳あたりが良くて、これはこれで好きだという人も居る。
時期的に真空管アンプからトランジスタにカッティングは切り替わっていた頃で、盤の材質も純度と安定性が上がっているのでアナログの再生では扱いやすいレコードです。
同じソースでも、SXL オリジナルの 1/5 ~ 1/10 程度の費用で入手できるので、コストパフォーマンスの高い盤としてオススメできます。
また、今回のコレクションは、盤質が良好な盤が多いことも付け加えておきます。