ヤドロウカーの名が知られるようになったのは旧吹き込み時代に於いても比較的後のことである。これはドイツ・グラモフォン盤が輸入されるに至ってからであって、それ以前は彼の名を口にする者も無かった。当時はテノールといえばカルーソー一人に人気が集まっていて、他の歌手はさまで顧みられなかった。ましてヤドロウカーの如く殆ど紹介らしい紹介をされなかった歌手に於いては無理ならぬ事である。

Hermann Jadlowker
ヤドロウカーのレコードはビクターに僅か5枚ある。併しこれは余り売れなかったかして、早くから姿を消してしまった。ここに選ばれた「花の歌」はその中の最も代表的なものであって、今聴き直してみても決して悪くはない。彼はカルーソーの様な一般受けのする甘い声の持ち主ではないが、その発声法は正確で、渋みのある歌い方をする。この頃の歌手は今時の歌手と違って修行が劇しく、長年に渉って鍛錬し抜いているので聴いていて少しも危気なところがない。
さて、この『花の歌』はヤドロウカーの外にもカルーソー、アンソウ、マルティネリー、マッコーマック、ウィリアムス、それにダルモーレスの歌ったレコードがあるが、気品のあるのはヤドロウカーが一番であったと思っている。
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